社内で行動観察調査を実施してみた
TECH
2024.03.05
更新日:2022.12.23
公開日:2022.09.12
2022年1月にPLAN-Bにジョインした横手と申します。
UX/UIデザイナーとして中途入社しましたが、前職は広告代理店のプランナー兼ディレクター、つまり完全なる未経験での採用でした。
本記事では、未経験デザイナーが一人前を目指してハイハイで第一歩を踏み出すまでの軌跡を記します。
入社して2日目。
入社研修でパンクしそうになっている中、UXユニットの業務やUXデザインについての説明の最後に、先輩Sさんからこう告げられました。
「この不動産サイトでの家探しの体験をよりよくしてください」
対象となったとある不動産サイトにおいての家探しの体験をよりよくするために、体験設計・画面設計を自身で行う、というのが今回の研修のお題です。
どのような商品やサービスにおいても、そこには必ず「ユーザー」と「作り手」が存在します。いくら高機能で品質が高い商品やサービスであっても、ユーザーニーズに即していなければ存続することはできず、価値提供も叶いません。そのような事態を避けるためにも、作り手ではなく「ユーザー起点」で物事を捉えることが肝要であり、その「ユーザー起点」での検討やプロトタイピングを体感することが研修の目的です。
こうして、何が分からないのかも分からないような状態のまま、約3週間に亘る体験設計研修がスタートしました。
※今回は「賃貸物件の検索」のみを対象としており、マンション購入や注文住宅などに関する機能の利用は考慮していません。
いよいよ研修スタート!
…とは言っても何から始めればいいのかも分からなかったので、とりあえず家探しについて知ろうと、「いい家探し体験」の定義を考えたり、家探しについてのアンケート結果を眺めながら分析してみたり、自分で調査対象のサイトを使ってみたりと、あらゆる側面での情報収集を試みました。
あれやこれやと試みるうちに余計に何が何だか分からなくなり、先輩Sさんに相談すると、
「まずはユーザーが実際に使っているところを見せてもらって、行動観察をするのがいいよ」とアドバイスをいただいたので、社内でインタビューを行うことになりました。
社内で募集をかけたところ、調査対象のサイトを始めとした住宅情報サイトで家探しをしたことがあるという10名の方々にご協力いただけることに(ご協力本当にありがとうございました…!)
インタビューでは、住宅情報サイトの利用や家探し(引っ越し)の経験、そのときの状況などについてお伺いしたあと、実際にご自身が行った家探しを調査対象のサイトのブラウザ版を使って再現していただきました。
インタビュー内容や調査対象のサイト利用時の行動を振り返り、考えるうちに、
「家探しでは多くのリソース(時間、体力、気力、お金)が割かれることが前提としてあるから、ユーザーはなるべくそのリソースを少なく済ませられる方法を選択したいのでは?」という仮説に至りました。
現状の調査対象のサイトでは、最も目に留まりやすいところをクリックして進んでいくと、次のような流れで物件検索結果にたどり着きます。
つまり、「住みたい沿線・エリアの候補が決まっていて、沿線・エリアを選ぶことができる人」のみが、詳細条件を設定して検索結果にたどり着ける、という状態です。
また、対象としたサイト以外の業界サイトを調査してみても、同様に沿線・エリアから絞っていく形式が最も大きな導線として採用されている傾向にある、ということも分かりました。
(「通勤・通学時間から探す」という、職場や学校への所要時間を基準に探すことができる便利な機能もあるものの、その機能への入り口は目立ちにくく、インタビュー時にこの機能を使えていたユーザーはほとんどいませんでした)
家探しが初めてという人や、住みたい場所をはっきりと決められていない段階の人にとって、いきなり沿線・エリアを選択することは難しい(できたとしても、それが自分の希望に合っている可能性は低い)と考えられます。
そのため、例えば「大阪 一人暮らし おすすめ 駅」などと検索したり、自分よりも詳しそうな人に話を聞いたりして、住みたい沿線・エリアを別途絞っておく必要がありそうです。ただ、この場合はサイトと他を行き来しなければならず、結果多くの手間とストレスがかかってしまいます。
このことから、引っ越し先となる沿線・エリアについての知識の有無や程度、家探し(引っ越し)そのものの経験値によって「いい家探し体験」までの距離に大きな差が生まれる、ということが分かりました。
調査対象のサイトなどで物件を比較する前、「自分の希望の家賃・エリア・条件を持つ」という段階から、既に家探しは始まっていたのです。
上記のような仮説や考察に基づいて、初めに作成したプロトタイプがこちら!
先輩Sさんにユーザー視点でレビューしてもらったところ、総合すると「自分で判断して選択しなければならないところが多く、道に迷ってしまう。自分におすすめのエリアがパッと出てきたら嬉しい」という意見をいただきました。
具体例を一つ挙げると、序盤の「はじめて家を探す」「はじめての場所で家を探す」という2択は、ボタンを大きく目立つ位置に配置して家探し初心者にも分かりやすい選択肢を作ったつもりでしたが、「社会人になるタイミングで実家を出て初めて家探しをする」といったケースだとどちらにも当てはまるので選びづらい、とのことでした。
実は、インタビューから分かったユーザーの悩みや表層的な使いづらさを解決するためにとりあえず部分的なアイディア(いきなり沿線・エリアから選べない→初心者向けの入り口を作ろう!など)を出しまくり、それらを調査対象のサイトでの家探しという一連の流れに半ば無理やりはめ込んで形にしたものがver.1だったこともあり、結果的に一貫性がなく分断されているものになってしまったようです。
ver.1における個々のアイディアや先輩Sさんからのレビューを参考に、「ユーザーにとって便利な家探し体験」を改めて検討し、作成したプロトタイプver.2がこちら!
事前調査にご協力いただいた方々にはver.1とver.2いずれについてもレビューを依頼し、それぞれの機能性だけでなく、ver.2における自身の狙いが達成できているかを検証しました。
事前調査で、自分の希望の家賃・エリア・条件を持つことが家探しの第一段階であると分かったにも関わらず、その困りごとがver.1ではうまく解決できていませんでした。
そのため、ver.2では簡単な選択肢をところどころに用意することでユーザー側の労力を減らしつつ、希望を可視化していくことを目指しました。
この改善により、基本的には外部情報に頼らずとも、調査対象のサイトだけで「自分の希望の家賃・エリア・条件を持つ」ことが可能になりました。
全体としては、途中で見放されるような感覚があったとも評されたver.1と比較すると、ver.2はかなり使いやすくなっており最後まで案内してくれる印象があった、と概ね評価いただきました。
ただ、ここで新たに「ユーザーの行動特性の違い」という大きな壁に阻まれたのです。
家探しを行うユーザーは、
の大きく3タイプの行動特性に分けられると考えました。
「家探しが初めて」という、経験値的な側面では同じ地点からのスタートでも、「希望に合った物件に出会う」というゴールまでの道のり(=体験)はそれぞれで大きく異なります。
しかし、ver.2ではこれらの行動特性の違いを考慮できておらず、全てのユーザーを一括りにターゲットとして設計した結果、2や3のユーザーにもチュートリアルを最後まで無理やりやらせることとなり、不満やもどかしさが生じてしまいました。
では、ユーザーの行動特性の違いを考慮しつつ、それぞれにとって一貫して便利な体験を目指し、今一度設計を行います。
ver.3では、メインターゲットは「なるべく手取り足取りサポートしてほしい人(タイプ1)」として、選択式の質問に答えるという簡単な判断だけで自分の理想の物件にたどり着けるようにしつつも、随所にメインルートからの抜け道を作ることで、「選択の余地はほしい人(タイプ2・3)」の要求も満たせるようにしました。
こちらをレビューいただいたところ、家探しについての知識が何もない段階からでも自分の希望を簡単に可視化・言語化することができ、ターゲットに合わせてきちんと道が分かれていて使いやすい、と狙い通りのお声をいただきました。
細かい修正点や改善できる箇所はまだまだあるものの、先輩Sさんにも「体験ごと何回もちゃんと書き換わっていていいものになっている」とOKをいただき、体験設計研修は終了となりました。
今回の研修を通して、デザインの本質でもある「ユーザー起点で考えること」そして「プロトタイピングの効果・価値」を肌で感じることができました。
プロトタイプがきちんとバージョンアップしていったのは、ユーザーに当てて改善する、という工程を何度も行い、かつ表層の修正だけでなく「一度壊して再び作る」ことができたからだと思います。実際のユーザーに当てることで、自分の中にあったモヤモヤや課題が明確になったり、思わぬ気づきがあったりと、多くのものを得られる実感がありました。
そしてこれらを、本などでインプットする何倍もの解像度で理解できたこと、デザイナーとしてのキャリアをスタートさせたばかりのこの段階で自分の中に浸透させられたことは、何よりも大きな収穫でした。
デザイナーとして実務を行う土台としてこの研修があったことで、「PLAN-Bのデザイナー」としての思想や意識を早期に定着させることができたと実感しています。
今後デザイナーとして経験を積み、多くの知識やスキルを身に付けていく中でも、今回の研修で学んだことを忘れず、常にブレない軸として持っておきたいです。