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2024.11.28
更新日:2022.12.23
公開日:2017.07.20
「ブランディング」というと、これまではいわゆるアウターブランディングだけに目を向ける企業が大半でした。アウターブランディングとは、顧客や取引先企業、株主といった社外のステークホルダーに対して行うブランディングです。
それに対し、インナーブランディングは身内とも言える自社の従業員に対して行うブランディングです。そして、最近このインナーブランディングを重要視する企業が増えています。
このコラムでは、そんなインナーブランディングの実践事例や、具体的な取り組み方を解説していきます。
インナーブランディングとは、自社や自社商材の価値、ビジョンといったブランドへの理解度を高める働きかけを従業員に対して行うことです。最近では、正社員だけではなく、パートタイム社員やアルバイト社員、契約社員や派遣社員など従業員全体をインナーブランディングの対象とする企業が増えています。
そんなインナーブランディングは、必ずしも新たな試みではありません。ホテルや飲食店といった直接顧客と接することが多い業種を中心に、1990年代から主に米国で行われてきました。実際、インナーブランディングの実践事例として取り上げられることが多いのも、実店舗などでの接客を伴う業種です。
インナーブランディングを行うことで、社員は自社の理念やビジョンに合わせた行動を、自然にとることができるようになります。予測の難しい突発的な事態が発生した場合でも、マニュアル一辺倒の対応ではなく、ブランドイメージに応じた対応ができるようになります。
たとえば、ザ・リッツ・カールトンホテル カンパニー L.L.C(以下 リッツ・カールトン)やディズニーリゾートはインナーブランディングの代表的な実践事例としてしばしば取り上げられています。
リッツ・カールトンでは、宿泊者に対して「最高のパーソナル・サービスと施設を提供すること」を約束するというメッセージの書かれた「クレド」と呼ばれるカードを従業員に携行させています。
そして、「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」をモットーとして定めて、すべての従業員が最高レベルのサービスを提供することを求めています。実際にリッツ・カールトンはホテル業界でもトップクラスのサービスを実現しています。
接客業では、ともすると画一的なサービスばかりを追い求めるあまり、従業員をマニュアルによってがんじがらめにしてしまいがちです。
しかし、リッツ・カールトンでは目指すべきブランドイメージを端的なメッセージによって浸透させることで、各従業員が自らが主体的に考えてサービスを提供できる環境が生まれ、結果的にサービス品質が向上していると言えます。
ディズニーランドやディズニーシーを運営するディズニーリゾートも、インナーブランディングを徹底しています。
スタッフを「キャスト(役者)」と呼び、来場者を「ゲスト」と呼んでいることは一般にも広く知られています。キャストたちは、ゲストの夢を叶える「夢の国」は、キャストがいなければ実現できない世界であることを徹底して学びます。
キャストたちは、夢の国でゲストに魔法をかけることは、自分たちキャストの重要な仕事であることを理解し、舞台を構成する重要な役割としてゲストに接することで「また夢の国へ来たい」と感じる体験を提供することができるのです。
「自ら進んで『やりたい』と思える人が決して多くはないものの、社会にとって欠かせない」清掃も、そんな仕事の1つではないでしょうか?
JR東日本テクノハートTESSEI(以下 TESSEI)は、JR東日本の清掃関連子会社として、新幹線車内や駅構内の清掃を担っています。同社の従業員が東京駅で行う車内清掃は丁寧かつ7分という非常に短い時間で行われており、その職人芸ともいえる清掃活動から巷では「7分間の新幹線劇場」と呼ばれています。
しかし、TESSEIの従業員が行っているのは清掃だけではありません。
CS行動規範として「『さわやか、あんしん、あったか』空間の創造」を掲げたうえで、5項目にわたって具体的な行動規範を示し、その中で利用客の積極的なサポートやあたたかな応対を心掛けることを示しています。
そして、同僚が良い行いをしているところを見かけた時にA4用紙数枚程度にリポートをまとめて社内で共有する事で「同僚を褒めよう」という「エンジェル・リポート」という制度を設け、特にリポートの件数が多かった従業員を表彰しています。
また、リポートを受け取る側だけではなく、数多くのリポートを作成した、つまり同僚の良い行いに気付くことの多かった従業員も表彰している点もユニークです。
このような取り組みによって、TESSEIは「3K職種」と表現されることもある清掃という仕事をやりがいのあるものに変えているのです。その結果、シリコンバレーの企業が視察に訪れるほどになっています。
TESSEIの事例から、どのような仕事であっても社内の文化や習慣を良い方向に変えること、すなわちインナーブランディングを行うことによって、従業員のモチベーションを高い水準で維持できることがわかります。
では、インナーブランディングを実践する場合にはどのような方法があるのでしょうか?
まずは、従業員を集めた勉強会を開催しましょう。経営層が自社ブランドに対する思いを従業員に対して直接語り掛ける機会を設けることが、インナーブランディングの第一歩となります。
とはいえ、座学による一方的な研修だけでは十分な理解を促すことは難しいでしょう。そのため、従業員による持ち回りでの研修の主催やワークショップを行うことで、従業員自らが様々な意見を出し合い、能動的に理解を深められるような形態で実施する必要があります。
ここで一度、皆さんの所属する企業について次の問いへの答えを考えてみてください。
いかがでしょうか? おそらく、自社のコーポレートサイトやパンフレットを参照しなければ明確に答えることが難しいという方が多いはず…。これらの問いへの回答は、いずれもブランドを定義付けているものであり、インナーブランディングにおいても正しく理解しておくべき事項となります。
とはいえ、これらを確認するためにわざわざ研修を実施するのは現実的ではありません。また、1度の研修で理解するというよりは、定期的に確認をしながら定着を図っていくべき要素でもあります。
そこで、インナーブランディングに取り組む企業の中にはブランドメッセージやミッション、社名やロゴに込められた意味、創業までの背景などをまとめた「ブランドブック」を作成して配布しているところも存在します。
あるいは、特に実際に顧客と対峙する従業員にはリッツ・カールトンのようにサービスの根源となる考え方を端的なメッセージで表現したカードを作成・配布するのも良いでしょう。
研修やブランドブックの配布といった取り組みを行っても、それが従業員のブランド理解度向上という本来の目的につながっていなければ意味がありません。そこで、インナーブランディングに関わる取り組みが目的の達成につながっているのかを確認する必要があります。
具体的には、研修やブランドブックで取り扱った内容を反映した理解度テストを定期的に実施することによって理解度を測りましょう。その一方で、ブランドに対する従業員の意見を上手に汲み取ることも必要です。
インナーブランディングの取り組みが正しい方向に進んでいれば、ブランドに対する従業員の愛着は高まり、以前より主体的に自社について考えるようになっているはずです。その結果、ブランドについて様々な意見を持つようになり、それらを汲み取ることでブランドをより良きものに変えていくことができる可能性があるからです。
そのため、ブランドについて問うアンケートを定期的に実施して従業員の意見を収集しましょう。
ご存知の通り、ウェブサイトやSNSは企業活動における重要な情報発信の手段として認知されています。そして、これは顧客接点がこれまでにないほどの拡がりを見せていることも意味します。実店舗以外の様々なタッチポイントで、実店舗で接客に当たる従業員以外も顧客あるいは広く生活者と接点を持つようになっているのです。
その結果、あらゆる従業員が自社や自社商材に関する情報を発信する機会に遭遇する可能性を持つようになっています。そんな現代だからこそ、自社や自社商材の価値やビジョンといったブランドへの理解度を高める働きかけであるインナーブランディングの重要性が高まっていると言えるでしょう。
あらゆる従業員がブランドについて深く理解し、SNSにおいてブランドに対する好意的な情報を積極的に発信できるようになれば、それは集客や販売促進と知った自社のマーケティング活動にも大きくプラスに働くはずです。
皆さんも、まずは社内でのブランド浸透の状況を見直し、インナーブランディングに取り組んでみてはいかがでしょうか?